「恩送り」とは

 

 「恩送り」とは

誰かから受けた恩を、直接その人に返すのではなく、別の人に送ることをいいます。

 

私(東)は2007年に耳下腺腫瘍の手術を受けました。病気の詳細はここには記しませんが、術後、完全顔面神経麻痺、咬合不全、嚥下障害を後遺しました。そのとき頭頸部腫瘍(首から上の部位の腫瘍)の患者さんのメーリングリストに入会しました。先輩の患者さんに慰めてもらったり、いろいろ教えてもらったり、あたたかいお返事を返してくださるだけでも随分嬉しかったことを今でも覚えています。

やがて、ラッキーにも私の後遺症は改善に向かいました。一方、私に親切にしてくださった方々は「がん」患者さんでした。術後後遺症のため、休職し、受診以外で外出することもなかった私が人前に出られるくらいまで回復した頃、私を支えてくれたその方たちはこの世から旅立たれていました。「自分だけが治ってしまった」という罪悪感にかられ、その場に居れなくなり、メーリングリストは退会しました。

仕事に復帰し、泌尿器外科医から在宅医に転身して医療の現場に戻ると、その頃はちょうど入院期間を短くすることがどんどん加速し、がん治療も外来通院で行う時代に向かっている頃でした。積極的な治療ができなくなった患者さんは今まで頼りにしていた病院から離れなければならず、その思いを内に秘めたまま、消極的選択として在宅医療を受けておられる方も多くお見受けしました。その方が旅立たれるまでに、その思いを何とか受けとめなくてはならないという気持ちで、コミュニケーションやカウンセリング、コーチングなど手当たり次第に学びに行きました。そのなかで「がん哲学外来」と出会い、目の前で苦しんでいるひとりの人のために自分を使うことを学びました。「このために私は治ったんだ」と心から思えました。

20131月、「メディカルカフェあずまや」を開設し、個人面談も行っています。「あずまや」を開催していくうちに、対話する場の必要性、フリーアクセスできることの大切さをますます強く感じています。

 

ボランティアで活動する私に、「なぜボランティアなんですか?」と訊かれる方がいらっしゃいます。それは、私の活動は「恩送り」だからです。